巷では『君はどう生きるか』で盛り上がっている今日この頃ですが、私は未だ観ていません。はやく観たいなぁとは思っていますが、観た人によって賛否両論に評価が割れており、メッセージ性の高い内容であることは間違いないようで、宮崎監督独特の難解な内容のようですね。中毒性の高いことで知られる宮崎アニメですが、あえて、一本あげるとすれば宮崎駿劇場映画初監督作品である『ルパン三世 カリオストロの城』。純粋にエンターテインメントに全振りしたことで監督の癖の強さ、アクの強さが抜けて誰もが純粋に映画に浸れるハマれる作品といえばこの『カリオストロの城』以外ないのではないでしょうか?公開されて40年以上もたつのに、なぜこれほど自分を中毒にさせるのか?カルト的人気を得ているのか?その理由を探っていききたいと思います。
圧倒的なまでの娯楽映画
この映画の魅力は何かというと、誰もが楽しめる娯楽性に徹していることだと思います。小さな子供が観ても、お年寄りが観ても、日本語がわからない外国の方が観てもおそらく楽しめる懐の深さがあります。とにかく、画面全体から宮崎監督の観客を喜ばせよう、楽しませよう、驚かせようという意図が明確に伝わってくるし、ストーリーの緩急のつけ方が絶妙なのでテンポよく最後までだれることなく一気に観れてしまう。内容は、幽閉されているお姫様を、主人公が助け出すという昔からある古典的なものですが、だからこそ安心してその世界にひたりつつ、ルパン三世という古典とは真逆のぶっ飛んだキャラクターがかもしだすギャップで世界観をおもしろく、より深めています。オープニングのカジノ襲撃から、エンディングのカーチェイスまで、まったく無駄のない脚本、隙のない演出、作画。これは、監督が旧ルパンのTVシリーズを長年担当されていたからこそできた作品です。宮崎監督の娯楽映画に対するストイックさをこれでもかと味合わせてくれます。血沸き肉躍る、手に汗握る、息つく暇のない、とは映画の形容によく使われますが、この作品こそそれにふさわしいお手本のような映画です。
娯楽なのに内容は深い
そして、もう一つはただの娯楽作品のようにみせておきながら、実は単純な内容ではなく、「いろいろと考えさせられる」ところもこの作品の魅力であります。宮崎作品のほかの映画にもいえることですが、娯楽映画としての面白さ以上に強いテーマ性がうかがえます。普通の映画のテーマといえば、愛や友情、夢や希望、努力、根性といったものがありますが、宮崎映画の場合はもっと難解で複雑なものが多いと思います。現在公開中の映画はその最たるものなのではないでしょうか?もちろん観た人によって賛否両論あるのは当然なのですが難解であるがゆえに、さまざまな考察がされて、いろいろな角度から解釈がされます。それに対して監督や公式からの明確な答えというのがないため、よりミステリアスな魅力に拍車がかかります。翻って『カリオストロの城』ですが、他の作品群にくらべて一見テーマ性が薄い(少ない)ようにみえます。泥棒の主人公が囚われの姫を助け出すという王道のストーリーは、原作のルパン三世を知らない人がいきなり観ても、十分に楽しめる内容です。手に汗握るアクション・スリル満載の冒険活劇…これでテーマは十分のはずですが、そこで終わらないのがやはり宮崎作品。観終わった後に、もう一度観て確かめたくなる、つまり何度も映画を観たくなるしかけがたくさん施してあるんですね。一回目は迫力あるアクションシーンを大画面でを楽しむ。2回目はキャラクターの行動や表情から内面の展開を楽しむ。三回目はストーリー展開から監督の意図を読み取る。4回目は作画や音楽、声優さんの演技など演出面のすばらしさを堪能する…なんていっていたらもう完全に中毒ですよねw。特にこの映画のすごいところは、ルパン三世という一見おちゃらけた、うすっぺらい、軽薄な印象のキャラを、一人の人間として掘り下げているところです。それまで全く関心がなかった人やなんとなくアニメやコミックで知っていた人が、この映画を観てルパンに惚れたという人が多いのもうなづけます。前作の映画『ルパンVS複製人間』にくらべるとまるで別人のようなキャラ設定。とにかくアニメの空想上のキャラではなく、実際にいる人間…現実に向き合いながら苦悩している私たちと同じ世界線にいる存在として描かれているんですね。人の悲しさや苦しさ、やりきれなさを背負いながらも笑っておどけてみせる主人公。ここにこの映画の神髄があるように思います。それは宮崎アニメ全体にいえることでもあります。アニメという絵が動くだけの、子供が観て楽しむだけの世界に、人間の内面の陰の部分と陽の部分をここまでリアルに落とし込むことができたのは監督の功績によるものだと思います。公開当時は宇宙戦艦ヤマトなどのアニメ作品がヒットした時代でもありましたが、それまではアニメといえば子供向けの作品がほとんどでした。『カリオストロの城』は、その後のアニメ史を塗り替える、大人が観ても十分納得できるアニメ映画の転換点だったように思います。
やっぱり音楽がサイコーw
ルパンを語るうえで避けて通れないのが、やはりその音楽でしょう。ルパン三世Part2から担当されている大野雄二さんがこの映画でも担当されているのですが、使われている曲がすべて神がかっています。当然TVで使われている曲も多いのですが、大野さんの曲とこの映画の世界観がマッチしすぎていて、サウンドトラックを聴いているだけでカリオストロの世界にいるような仮想体験が味わえます。『犬神家の一族』も大野さんが担当されていますが、やはり大野さんの作る曲自体が中毒性を持っているのでしょうね。曲を聴きたいがために何度も映画をみている部分もありますから。主題歌の『炎のたからもの』(ボビー)は一度聴いたら頭から離れないくらい印象的で、この映画のイメージをそのまま歌にしたような名曲です。夏の終わりになるとこの曲を聴きたくなる人は私だけではないはずです。その他にも、カーチェイスで使われている有名なテーマ曲のアレンジバージョンや、クラリス救出時のサンバデスペラードなど、これぞルパン三世!と叫びたくなるような名曲がふんだんに使われていてファンにはたまらないものがあります。私のつたない文章では到底その良さが伝わらないので興味のある方はぜひサントラを聴いてみてください。気にいった方は一生の『たからもの』になること間違いなしですよ!