ご存じ金田一耕助が主役の探偵ミステリーですね。

当時のパンフレット

この犬神家の一族って過去に何度も映画化されたり、ドラマ化されたり、舞台化もされたりしているのですが、実は、ゲーム化もされているのってご存じでしたか?

ニンテンドーDSで2015年にフロムソフトウェアから発売されています。あのソウルシリーズのフロムが?と驚きましたが、それ以上に犬神家のゲームってところが意外過ぎてゲーム好きには興味をそそられるところであります。

今度、ぜひアマゾンでぽっちって、やってみたいと思います。

話がそれましたが、そんな国民的人気タイトルの映画の中でも、とくに中毒性が高い映画が

1976年公開の市川崑監督、石坂浩二さん主演による、犬神家の一族でございます。

実は2006年に同じ市川監督でリメイクされているのですが、ここでは1976年の作品を取り上げてまいります。

わたくし、実は映画館で見ていなくて、当時父親がVHSに録画してあったものを見たんですね。だから80年代に見ています。

確か月曜洋画劇場だったんじゃないかなと思います。解説が荻昌弘さんでした。

最初見た時のインパクトたるや大変なものでしたね。この映画はショッキングなシーンが結構あるため、よくトラウマになるレベルといいますけど、なるほど確かに当時のちびっこが、これを見ればトラウマにもなるわっ、て思います。

市川監督って、ビルマの竪琴とか東京オリンピックとか細雪とか、名作や文学作品を取る方だとばかり思っていたので、こんなびっくりドッキリホラーな映画もとるんだと、その意外性には驚きました。

最初、一回観終わったときに、あまりの怖さにもう二度と見ないだろうと思っていました。

でも、しばらくして、なんか気になって、またビデオを見ちゃったんですね。怖いものみたさってやつですかね。人間の性ですね。

そうしたら、え?なにこれ?ちょっと、おもしろいじゃん!もう一回観よ!、にかわっちゃたんです。今思えばこれが中毒のはじまりですね。

なぜ、これにはまったのか? 説明しようとすると難しいのですが、この映画の放つ独特の雰囲気といいましょうか空気感といいましょうか、市川監督のつくる映像美が、それまで見てきた他の映画やドラマとは、明らかに違うと感じたからだと思います。

ストーリーからして、ミステリーというようりもほとんどホラーです。絵が暗いです。終始、じめーっとした雰囲気が続きます。まがまがしいオーラが冒頭からでまくりです。おどろおどろしいという言葉がぴったりあてはまります。

最後に謎が解けて、犯人がわかって、ああよかった、一件落着ぅ~で、すっきり気持ちよく終わる内容でもありません。なのに引き込まれるんです、この世界に。この呪われた世界に。

本当に、自分が『犬神家の一族』の世界にいるような気分にさせられます。恐ろしいのに、何故か、この世界観にずっとひたっていたいとさえ思います。やばいですよね。

なんでなんだろう?とずっと不思議に思っていました。

中毒になる理由その1

「緻密に計算された空気」

実はこの映画ってものすごい計算されて作られているんじゃないかと思うわけです。そりゃ映画なんだから当然だろ、と思うでしょう。しかし当時の市川崑監督の計算は、他の作品とくらべても明らかに異常で、神がかっているんです。わかりやすいところだと、例えばカット割りですね。ご覧になった方はわかると思うんですが、緊迫感のある場面や重要な場面では、ものすごい速さで細かくカットが流れていきます。ぼーつとみてると、置いてけぼりにされます。え、今の何?どういうこと?みたいな感じで。こういう演出ってドラマや映画でもよくつかわれる手法かもしれませんが、ここまで効果的にかつ自然に映像として表現されている作品って他には無い気がします。この緩急の流れのつけ方がうまいので、見ていてだれることがないし、一定の緊張感が持続しているんですね。映画って不思議なもんで、映像がきれいなだけじゃつまらないんです。きれいな映像みたけりゃ、実物みればいいだけですもんね。役者がうまいだけじゃ見てても飽きちゃう。

犬神家のすごいところは、この市川マジックを自然に、さりげなくやってみせているところだと思います。

こういう演出って、どうしてもわざとらしくなりやすいんですね。かえって表現がくどくなる恐れもある。作り手側の意図が簡単に読めてしまう。

「どうだこの演出、スタイリッシュでいかしてるだろー」って。

そうなると逆効果で、見てる側が現実にひきもどされちゃう。「あー、はい、はい」って、興ざめするやつです。それがだんだん鼻につくようになり、見ていてつらくなってくる。

そう考えると演出のバランスって本当に難しいですね。

で、犬神家の話にもどりますが、映像にしても、役者さんの演技にしても、音の入れ方にしても、コマの割り方にしても、市川監督の独特のセンスで、絶妙にバランスが保たれていることがわかります。

例えば、冒頭の犬神家の屋敷のシーンから、佐平翁ご臨終、オープニングタイトルまでの短い流れ。これだけで、この世界で、何かとんでもない、ヤバイことが起ころうとしている、ということを、観客は感じる事ができるんです。

映像と、音から因縁めいた禍々しさ、おどろおどろしさがプンプンと、臭ってくるんです。それがとても自然に表現されている。わざとらしい感じが一切無い。

これがもう神がかっている部分だと思います。だから、見ている側が自然に映画の中に入り込めて、その場の空気を感じることができるようになっているんです。映画の中の緊張感がダイレクトに伝わってくるんですね。こういう感覚ってほかの映画やドラマではほとんどありませんでした。

中毒になる理由その2

「豪華すぎる、贅沢すぎる役者さんたち」

犬神家の一族は、角川映画の記念すべき第一作目であり、当時としては破格の製作費2億2000万円をかけて挑みました。宣伝費用も相当かかっていたでしょう。当時テレビのCMで何度も予告が流れたり、本屋さんに原作本が山積みにされていたりしたのを覚えています。

豪華なのは予算の面だけでなく、出演されている俳優陣が、もうとにかく豪華。オールスターキャストといってもいいくらい、当時の一流の役者さんたちを惜しげもなく使っています。

石坂浩二さんはもちろん、あおい輝彦さん、島田陽子さん、高峰美枝子さん、草笛光子さん、三国廉太郎さんなど、今では到底考えられないような配役がされているんですね。

脇を固める役者さんたちも、坂口良子さんや岸田今日子さん、加藤武さん、三木のり平さんなど当時の売れている一流の俳優さんばかりを使っています。キャスティングにまったく隙がありません。いかに角川書店が、この映画にかけていたかがうかがえますよね。そのかいあって、配給収入は15億5900万円の大ヒットとなりました。

監督が市川崑だけあって、それぞれの役者さんがまるで本当に「犬神家の一族」の中で生きているかのような、すばらしい演技をされています。一流の役者さんとはこういうものなのかと思わせる、演技と思えないような自然な動き、セリフ回し、視線の使い方。

最近の若手俳優や、新人アイドルばかりを起用する映画やドラマなどに慣れていると、本当に同じ日本人の作った映画なのかと思えるほどの衝撃を受けると思います。

最近の大河ドラマって、ものすごいお金をかけてつくってると思うんですが、犬神家の一族と比較してみるともう、学芸会や一般のビデオ作品かなと思っちゃうんですよね。

余談ですが、犬神家の女優さんたちは、本当にきれいです。着物を見事に着こなして、かっこいいんです。女性にかっこいいというのは変かもしれませんが、とにかく自然に着こなしていて日本の女性の美しさを足の先、指の先まで、見事に表現しているのが伝わってきます。時にかわいらしく、時に色っぽく、時に怪しく。最近の役者さんでここまで和服を自然に着こなして演技ができる人っているんでしょうかねぇ。今の大河ドラマとか見ていても、なんかいつも違和感しかないんですよねぇ。衣装にお金かけているんでしょうけど、かえって安っぽく見えるのはなぜなんだろう。取って付けた、作り物にしか見えないんですよね。

中毒になる理由その3

「音楽が神」

オープニングに流れる曲がまず神です。映画のタイトルがばーん!と出ると同時に流れるテーマ曲「愛のバラード」がもう最高です。この映画の成功は、最終的に、この曲で決まったといっても過言ではありません。犬神家といえば、絶対に、この曲というくらい、名曲であります。作曲は大野雄二先生。そう、ルパン三世パート2から現在に至るまで、ずーっと音楽担当をされている、日本の誇る大作曲家でございます。もちろん、ルパンだけではありません。その後の角川映画や、TV作品、CM、ゲーム音楽など数えきれないほどの名曲を今も作っておられます。

ここからは、私の完全な主観になりますが、大野さんの曲って、メロディーがものすごく日本人の琴線に触れるところがあると思うんです。大野雄二さんは、もともとがジャズピアニストなんですけど、アメリカ発祥の力強いジャズがベースにありながら、日本人独特のやさしさ、はかなさ、かなしさ、さびしさのような、切ない感情を曲の中にこめられているんですよね。恐ろしく、暗く悲しい曲のなかに、やさしさ、明るさ、強さ、希望が感じられる、まるで業の深い、罪を背負った人間にも救いの道をさししめしているかのような、まさに「犬神家」に呪われた人々に贈られた鎮魂歌のような曲なんです。

この曲をテーマにしたことで、この映画が、単なる謎解きミステリーやホラーではなく、人間の苦悩や悲しい性を、情念を、存分に描き切っていることを証明したといえるでしょう。他の横溝映画と一線を画しているのは、まさに、この曲が存在したからだと言えるのです。

余談ですが、この曲は有名になりすぎて、過去にCMやワイドショー、バラエティー番組のBGMなんかに使われたことがありました。やっぱりこの曲のインパクトがすごくて、一度聴いたら忘れられないですし、すぐに犬神家のイメージがわきますもんねぇ。2006年版の犬神家の一族では、音楽は別の方が担当されているのですが、このテーマ曲だけはオープニングで使われていましたね。この映画では絶対に外せない影の主役ということがよくわかります。

というわけで、何度も見たくなる、中毒性の高い『犬神家の一族』の魅力について、長々と語ってきましたが、皆さんはいかがでしょうか?ぜひご意見をコメントしていただけると嬉しいです。まだ本編を観ていない方は、ぜひ一度ご覧になってください。はまること間違いなしですよ。

投稿者

けん

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